本校の研究

教科実践編(理科)

理科における授業実践について

萩 賢明、浅野 欣史、宍野 彰彦

(1)単元の概要  (1年生:身のまわりの物質と性質)

 この小単元は、単元「いろいろな物質とその性質」内に特設したものである。この単元では、身のまわりの物質について様々な性質を調べ、その性質を理解することや調べ方の基礎を身につけることをねらいとしている。そこで、特設の小単元を設け、探究的な学習に取り組ませることで単元の目標をより達成できるようにした。
 この単元における目標は次のように設定した。

「未知のプラスチックの性質を様々な方法で調べ、得られた結果をもとに正体を区別する」

 今回の授業で扱うのは、5種類のプラスチックの材料(PET、PE、PS、PP、PVC)である。プラスチックは、生徒の生活において身近な物質の一つであるが、プラスチックといっても様々な種類がある。身近なものを例に挙げると、ペットボトルには、ボトル部分にPET(ポリエチレンテレフタラート)、キャップ部分にPE(ポリエチレン)、ラベル部分にPS(ポリスチレン)が使用されている。これらのプラスチックは、見た目だけで種類を区別することが非常に困難である。「見た目の似ている物質を区別する方法を考える」という内容は、別の物質(砂糖、食塩、片栗粉)を用いて既に実施している。その際の経験や知識を活用し、「未知のプラスチックを区別する」という目的を達成するために試行錯誤していくことが探究的な学習につながると考えた。
 普段の実験では、教師側が実験の手順をワークシート等に明記しており、得られる結果もほぼ一様なものになるように設定している。この授業では、実験手順を生徒自身で考えさせることとし、その時間を長く設定した。自分たちが仮説を設定する際に,自分たちで考えた方法で検証することを考慮しなければならないため、既習の知識や経験をより活用しようとする場面が増える。これにより、生徒の探究的な学習を充実させ、本時の目標をよりよく達成することを目指す。また、本時における生徒の探究的な学習の過程を明確にし、必要に応じて、それらがよりよく進められるような手立てを講じる。これらの詳細については、(5)以降で述べていく。

(2)小単元の目標

(3)小単元における探究的な学習の過程

第1時(実践) ① 課題の設定 身のまわりのプラスチック製品には様々な材料が用いられていることに気づき、それぞれを区別する方法について調べようとする。
② 仮説の設定・計画 プラスチックの種類を区別するために、最も効率の良い手順で検証ができるように実験計画を立てる。
第2時 ③ 検証・考察 実験計画に従って、実験を行い、得られた結果から見た目の似ているプラスチックの種類について区別する。
④ まとめ・表現 実験によって明らかになったそれぞれのプラスチックの性質についてまとめる。

(4)小単元の評価

時間 評価 備考(「十分満足できる」状況(A)にあると判断される具体的な例)
・見た目の似ているプラスチックを区別する方法を考え、説明することができる。
(思考・判断・表現)
・見た目の似ているプラスチックを区別する方法を「燃やした時の様子」「見た目」「手触り(触感)」など、既習の知識や過去の実験内容をもとに考え、説明することができている。
・実験によって得られた結果から、見た目の似ているプラスチックを区別することができる。
(知識・技能)
・事前に決めた検証計画に沿って実験を行い、得られた結果とフローチャートと照らし合わせながら、正体の不明なプラスチックについて区別することができる。

(5)授業実践の様子

写真1ペットボトルを実物投影機で提示している様子

「①課題の設定」の過程
 まず、生徒の前にペットボトルの容器を提示し、「ペットボトルは何でできているか?」という質問を行った。生徒からは「プラスチックでできている」という答えが挙がったので、「では、どうしてペットボトルはプラスチックごみとして捨てないのか?」という追発問を行った。そこから、ペットボトルを廃棄する際に、キャップ部分、ラベル部分、ボトル本体に分別して廃棄していることを思い出させ、ペットボトルには複数の種類のプラスチックが用いられていることを確認した。(写真1)その後、教師が本時に用いる5種類のプラスチックの板状のサンプルを見せ、材料の段階ではプラスチックの種類を見た目ではっきり区別することが難しいことを確認した。
 ここでは、「ペットボトル」という生徒にとって馴染みのある物体を提示することで、この学習内容と日常生活とのつながりを意識しやすくすることをねらいとした。また、各部分によって使われているプラスチックが異なっていることを示すために、キャップ部分とボトル本体を水槽に入れた水の中に入れ、浮き沈みの違いについて確認させた。これにより、性質が異なるプラスチックが使われていることを確認するだけでなく、次の「②仮説の設定・計画」の過程においてプラスチックを区別する方法を考える際のヒントとなるように、生徒の探究的な活動の補助を行った。また、浮き沈みの違いに関しては、その後の学習内容である「密度」を学習する際に、関連を意識させることができた。

写真2実験手順のフローチャート

写真3意見交換をしている様子

「②仮説の設定・計画」の過程
 本時におけるこの過程は、大きく分けて2つの内容で構成されている。
 まず、プラスチックを区別する方法について考えさせた。検証方法については、前時までに行った「砂糖・食塩・片栗粉の区別を行う実験」の内容を参考にするよう指示をした。また、「①課題の設定」の過程で演示した水への浮き沈みの様子の違いも参考にさせ、課題の解決に向けてどのような方法で区別できるかを考えさせた。多くの生徒が、「燃やしたときの様子を見る」「水に入れたときの浮き沈みの様子を確認する」といった内容で方法を考えていたが、中には「折り曲げて硬さを確認する」といった方法を考案している生徒も見られた。
 次に、考えた方法で実際にそれぞれのプラスチックがどのような性質を示すかを確認させた。そして、そこで得られたデータを参考に、どのような手順で実験を進めるかについて計画を立てさせた。ここでは、「実験を効率良く行う」という目標を提示し、各班で最も効率良く行える手順を検討させた。ここでの「効率の良い」とは、「実験の時間があまりかからない」ことや「使用する道具や試料が最小限で済む」といったことを意味する。限られた時間や資源の中で目的を達成していくことは、実社会の生産活動においても重視されることである。この探究的な学びが実社会での課題解決に活きる要素として、この目標を取り入れた。
 方法手順の書き方については、プログラミングのフローチャートの書き方を参考に書くよう指示をし、手順を確認しやすくした。(写真2)これにより、このあとの手順の修正を行ったときに修正前後の変化を比較しやすくした。また、記述する文字数も少なくなるため、検討に費やす時間をその分増やすことにつながった。
 最初の検討の後、自分たちの検証計画の妥当性を検討するために、互いの班で意見交換を行う時間を設定した。(写真3)ここでは他班の考えを聞く際に、「本当にその方法は適切であるか」「他に効率のよい方法はないか」といった視点で他の班の考えを聞き、気になったことは積極的に質問をするように指示をした。この活動を通して、各班の検証計画で不十分な点を生徒同士で見つけることができた。また、意見交換後の班ごとの再検討が活発に行われ、検証計画のブラッシュアップにつながった。

「③検証・考察」の過程
 この過程では、前時の授業で考えさせた検証計画に則り、正体が不明なプラスチック片試料の正体を区別させた。(写真4、5)約2cm四方に切りそろえたプラスチック片試料を種類ごとにガラスシャーレに入れ、蓋部にアルファベットを記入したシールを貼り付けた。生徒はアルファベットでラベリングされたプラスチック片試料を、検証計画に従って順番に検証し、区別を行った。
 生徒は、前時までに立てた計画を確認した後、どの試料から調査を開始するか、誰がどの実験操作を担当するかなどの分担を確認した後、検証に取りかかっていた。これらの生徒の言動から、前時に示した「効率よく実験を行う」という目標を強く意識させることができた。
 ここでは、前時に各班の検証計画を教師が把握することができていたため、安全に実験が行えているかの確認を優先的に確認し、机間指導を行った。

写真4プラスチック片試料を水に入れたときの状態を確認している様子

写真5プラスチック片試料を燃やしている様子

「④まとめ・表現」の過程
 この過程では、この授業を通して得たそれぞれのプラスチックの性質についてまとめた。また、そのプラスチックが用いられている実物の製品を提示し、それぞれのプラスチックの性質に最も適した用途や方法で身のまわりのものに活用されていることに気づかせた。
 最後に、本時の学習で考えた実験計画について、「この実験を通してできるようになったこと」や「今回の方法以外にどのような方法が今なら考えられるか」といった内容について個人で振り返りをさせた。生徒の記述には、「手触りのような個人差が出やすい調べ方では区別が難しかったので、次の実験などで参考にしたい」といった、今回の学習で得た知識や経験を、今後の学習において活かそうとする記述が見られた。

(6)成果と課題(〇…成果、●…課題)

写真63種類のプラスチックの
分類フローチャート

写真75種類のプラスチックの
分類フローチャート

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