本校の研究

教科実践編(社会)

社会科における授業実践について

大谷啓子、松田莉奈、清水英恵

(1)本単元の概要(3年生:地方自治)

 本単元は、地方自治のしくみや制度を理解させたうえで、小単元「人口減少地域におけるまちづくりを考える」を設定し、人口減少地域がどのようにまちづくりをすればよいか、「関係人口」に着目した方策を生み出すことをねらいとして構成した。
 徳島県は人口減少が課題であるという共通認識のもと、定住人口や交流人口の増加を図るだけにとらわれない、これからの人口減少時代に求められるまちづくりの方策を考えていくという見通しを持たせた。そして、本単元の貫く問いを次の通り設定した。

単元を貫く問い  人口減少地域はどのようにまちづくりをすればよいのか。

 その後、方策を考えるために徳島県の実態などの必要な情報を、統計資料を活用したりインターネットを利用したりして収集し、把握させた。また、よりよい方策を考えるため、世間のニーズと合ったものを、インターネットを利用して調べさせた。そのような情報を収集していく中で、徳島県の強みを見いだし、強みを生かした方策に練り直させた。次に、コストや資源・エネルギーなど持続可能性の視点から方策を分析し、資料を根拠にして改善させた。最後に、改善した方策をレポートにまとめ、必要に応じて資料を添付したスライドも作成させた。レポート作成においては、「とくしま創生アワード2023」のひらめき賞の応募用紙の形式をもとに作成させた。意欲的にこれからも地方創生について考え続けたいと強く思う生徒たちの表現の場として、来年のとくしま創生アワードの応募をすすめる。授業内でレポートをおおむね完成させているため、応募しやすいのではないかと考えている。
 小単元では、生徒の探究的な学習を充実させるために、生徒の探究的な学習の過程を明確にし、必要に応じて、学習活動を生徒が主体的に進められるような手立てを講じる。このような探究的な学習を行うことで、社会科の目標をよりよく達成することにつながり、将来的に、主体的にまちづくりに参画する人材を育成することができると考えた。探究的な学習の過程の詳細については、(3)以降で述べていく。

(2)小単元の目標

(3)小単元における探究的な学習の過程

① 課題の設定 課題の設定 徳島県の人口減少が新たにどのような問題を招くか予想し、今後さらに人口減少していくことが課題であることを認識したうえで、定住人口、交流人口につながる「関係人口」増加のための方策を考える。
② 情報の収集 徳島県の関係人口を増やすために、世間のニーズや徳島県の特色を、統計資料等を活用して調べ、徳島県の強みを見つける。
③ 整理・分析 他班が考えた方策の持続可能性について、資料を根拠に評価し、その評価をもとに方策を改善する。徳島県の関係人口の中で、マイナスの影響を与える人々がいないか等の視点をもとに考える。
④ まとめ・表現 マイナスの影響を与える人々の発生が最小限に済むように留意し、関係人口に着目して考えた解決策を、レポートとスライドにまとめる。

(4)小単元の評価規準

※「十分満足できる」状況(A)にあると判断される具体的な例

(5)授業実践の様子

資料1 授業中に提示したスライド

①「課題の設定」の過程
 本単元は、徳島県の課題を考えるところから始まった。事前に生徒には、①徳島県の地域的特色、②15年後を想像した自分のライフスタイルを記述させていた。そこでの記述には、①については、「人口減少、少子高齢化、商業施設や文化施設の少なさ」などがあり、②については、「県外の大学進学・就職、休日は商業施設に行って友人と過ごす」などの生徒の意見が非常に多く見られた。そこで、全体で個々の記述内容を共有し、徳島県は、「人口減少」が大きな課題であるという共通の認識をもたせた。その後、人口には自然人口や社会人口という概念があることを伝え、徳島県は、自然人口、社会人口ともに減少し続けていることを資料の読み取りを通して気付かせた。では、そもそも人口が減少することは課題なのだろうか。この問いについて全体で考え、人口が減少すること自体が課題ではなく、人口が減少することで生じる様々な問題が課題であるということを確認した。生徒から出た課題は、「活気がなくなる」「労働者や消費者が減り、産業が衰退する」「一人あたりの納税額が増える」等であった。
 では、人口が増加すると、先ほど出た課題は解決するのかについて考えた。ほとんどの生徒は、この課題に対して「解決する」という判断をしたため、ドイツの地方都市であるエアランゲンの写真を見せた。この都市は、人口約10万人である。中心市街地を歩行ゾーンとしており、人との交流が多く、活気がある街として取りあげられている。一方、徳島市の中心市街地は、近郊に立地している大型ショッピングセンターの進出や本州四国連絡橋の開通に伴い、かつての商店街がシャッター街になっている。この2つの地方都市の中心市街地の様子を比較させ、定住人口が少ないことがまちづくりにおいて弱点になるわけではなく、車社会化、公共交通機関の充実度など他の要因も大きく影響していることを認識させた。しかし、活気の有無は、人の多さと関連している。そこで、これまで徳島県が取り組んできた「定住人口」や「交流人口」を増やすための取組だけではなく、新たな概念として最近取りあげられている「関係人口」を増やすための方策を考えることを、本単元の課題とした。
 本単元の「①課題の設定」の「課題」の捉えについては、徳島県の課題の一つである「人口減少」ではなく、人口減少という課題を解決する方策として、「関係人口を増やすためにはどうすればよいか。」を「課題」とした。

資料2②「情報の収集」の過程で使用したワークシート

資料3単元通して使用したワークシート

②「情報の収集」の過程
 この過程は、①の過程で設定した課題の解決に向け、統計資料を活用したりインターネットを利用したりして徳島県の地形や産業などについて調べ、徳島県の強みを見いだすことを目的としている。
 まず、インターネットから情報を収集する方法(RESASや統計ダッシュボード、日本国勢図会などの活用方法)を伝え、各自が必要な情報を取捨選択しながらベン図に書き込むように指示をした。ベン図には、「徳島県の特色」と「世間のニーズや注目されていること、人々に興味があること」を書き、その共通点となる部分を「徳島県の強み」とした(資料2)。
 最初は、統計資料を読み取ることに慣れていない生徒が多かったが、徐々に資料を使いこなすことができるようになり、適切な資料を選び、読み取ることができていた。ある生徒は、統計資料から徳島県の森林率が高いことを「徳島県の特色」として読み取り、また、インターネットからキャンプが最近人気であることを「人々に興味があること」として読み取っていた。これらをベン図に書き出し、「徳島県の強み」を引き出させ、関係人口増加の方策をより具体的に考えるよう指示をした。
 ②の過程は2時間構成であり、2時間目は、より具体的に関係人口増加の方策になるよう、考えを練る時間とした。先ほどの生徒は、森林が多い地域には、キャンプ場を整備することや、キャンプ場にRVパークを整備することを方策としてワークシートに記述していた(資料3)。

写真1付箋に記入している様子

③「整理・分析」の過程
 この過程は、②の過程でおおむね完成した「関係人口増加のための方策内容」を自己と他者が相互に持続可能性の視点から再検討し、その分析内容を整理することで、さらによりよい方策になるように練り直すきっかけをつくることを目的としている。
 まず、学級全体に、「どのような視点から持続可能性について分析すればよいだろう。」と問うた。生徒からは、「コスト、資源・エネルギー、環境」などがあげられ、これらの視点から分析することを確認した。その後、各班が作成したワークシート(資料3)を隣の班が見て、コストや資源・エネルギーなどの視点から持続可能かどうかを分析させ、持続可能性に欠けている部分について、付箋に記入させた(写真1)。このとき、事前に各班の方策に対して教師がコメントを考え、1班につき1枚の付箋をワークシートに貼っておいた。このようにあらかじめ教師がコメントを書いたねらいは、次の2つである。1つ目は、何をコメントすればよいのかわからない生徒への手立てとなること、2つ目は、批判的な見方の模範を示す必要があると感じたことである。
 他の単元において、よりよい方策内容を考えさせるための手立てとして、相互評価をすることを何度か行ったことがある。その際、肯定的な意見ばかりで、改善につながるようなコメントを書くことができないという課題があった。肯定的な意見を述べることも良いが、批判的な意見を受け入れ改善していくことは、これからの社会において必要不可欠な力だと考えている。しかし、多くの生徒は、「友達でもある相手に批判的なコメントを書きづらい」や「批判的なことを言われたら悩んでしまう」といった考えをもっており、方策をよりよくするために、批判的な意見の必要性を感じていないようであった。
 そこで今回は、②の過程の前半の授業に作成した「関係人口の増加のためのアイデア」(資料3)に対する教師からのコメントとして、意図的に肯定的な内容を書かなかった。代わりに、方策を具体的にするために必要であると考えられる資料や考えを求めるコメントを書いた。そして、②の過程の後半の授業の冒頭にフィードバックを行った。最初は、批判的な内容を見るなり、戸惑っている様子であったが、インターネットを利用して調べたり、資料を探して読み取ったりしてコメントに根拠をもって応えられるようとする姿へと変わっていった。
 ②の過程で批判的なコメントを受け入れる経験をしているため、③の過程で同様に付箋を活用して相互評価したときには、批判的な意見を受け入れ、自分の意見に反映しようとする姿が見られた。

資料4 整理するためのワークシート

写真2③「整理・分析」の過程の授業における板書

資料5③の過程までで作成したワークシート

 その後、コメントされたワークシートを見て、付箋に書かれていた意見を自分の班の方策に「反映させる」か「反映しない」に整理する活動を行った(資料4)。分類する基準は、「資料をもとに論理的に説明できるかどうか」であることを伝えた。ある生徒は、「メタバース人口が少ないのではないか」というコメントに対し、メタバース人口のうち、18~35歳の男性に多いということが読み取れる資料を根拠に、若い男性に需要があると「反映しない」方に付箋を貼っていた。
 生徒の中には、コメントされたものはすべて反映しなければならないと感じている様子が多く見られた。それは、生徒が、受け取ったコメント内容を正確に分析しないまますべて「反映させる」必要があると考えているからではないかと授業者自身考えていた。そのため、コメント内容に関する資料をインターネットから取捨選択し、適切な資料をもとに反映する方がよいと判断できるものは方策に取り入れるように指示をした。生徒の中には、どのような資料を探せばよいのか分からず手が止まっている者も多くいたが、個別に「どのようなことが分かればいいと思う?」といった適切な資料へとつながる問いを投げかけることで、資料探しの手掛かりとした。
 付箋を「反映する」「反映しない」の2つに分類して整理し、持続可能性の視点で方策をよりよくすることができたところで、次は「マイナス関係人口」が増える可能性について考えさせた。関係人口の中には、地域住民にマイナスの影響を与える人々も含まれていることに生徒たちは気付いていなかった。そこで、「徳島県に関係をもつ人が来たとき、彼らがどのような行動した時あなたたちは困るか?」と問うことで、どのような徳島県との関わり方があるのかについて改めて疑問をもたせた。生徒からは、「ポイ捨て」「SNSで批判コメントをする」などがあげられた。このような徳島県にとって望ましくない関わり方をする人がいることも認識させた。これらの関わり方をする人たちを今回は、「マイナス関係人口」と定義し、マイナス関係人口をできるだけ減らすことが望ましいことを理解させた(写真2)。さらに、「プラスの関係人口はどのような人だろうか?」と問うと、具体的な行動がイメージできていないようであった。そこで、教師から「推し活」という行動を例としてあげた。授業者自身が岡山県に対してプラスの関わり方をしたいと思っており、実際に岡山県に行って買い物をしたり、岡山県のマスコットキャラクターとともに写真を撮ったりして「推し自治」をした様子を動画にし、視覚的にプラスの関係人口のイメージをつかませた。生徒たちの中では、日頃からアニメやアイドルの推し活をしている者も多く、「推し自治」について理解しているようであった。
 推し自治を例に、プラスの関係人口が増えるためにどうすればよいかを考え、レポートにまとめていくという次時の見通しを持たせ、授業を終えた。

写真3 ③「整理・分析」の過程の授業で使用したスライドの一部

写真3レポートを作成している様子

④「まとめ・表現」の過程
 この過程は、①の過程で設定した課題(関係人口増加のためにはどうすればよいのか)に対して、②~③の過程を経て練り上げた方策を、レポート及びスライドにまとめ、表現する過程である。
 「とくしま創生アワード2023」の応募用紙の形式に沿ってまとめていき、必要に応じてスライドを添付させた。まとめる活動をしていく中で、持続可能性の視点やプラスの関係人口を増やすための工夫を意識して書くよう指示をした。ある生徒は、マイナス関係人口を減らすために、SNSでの宣伝の際、批判的な内容の投稿を規制したり、ポイ捨てや渋滞を防ぐために、入場の人数を制限したりすることを提案していた。
 ④の過程をもって、「地方自治」の単元は終了した。これからの徳島県、日本を担う人材となる生徒たちには、この単元での学びによって、将来のまちづくりに積極的に参画していくことを期待している。関係人口は、その地方自治体に経済的な面で関わるだけでなく、その地方自治体の住民の郷土愛にも大きな影響を与えると考えている。自分の住むまちに誇りをもち、地域の中心となってまちづくりをする人になってほしいという思いを伝えた。単元を貫く問いに対する自分自身の考えを記述させた際には、まちづくりに対して積極的に関わろうとする意欲の芽生えが見られた(資料6)。

資料6 生徒の記述

(6)成果と課題(〇…成果、●…課題)

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