本校の研究

教科実践編(国語)

国語科における授業実践について

辻 貴美子 平岡 彩乃 北原 一世

(1)単元の概要(3年生:文章を批判的に読む)

 本単元では、人工知能が浸透する社会のなかで、これから自分たちにとって必要となる力を考えることを目標としている。その目標を達成するために、「学習の見通し」の場面では、教科書の中にある人工知能について述べられた二つの論説文を読む。二つの文章は、どちらも人工知能が浸透するこれからの時代を見据えて、人工知能とどのように向き合っていくべきなのかを生徒が考えやすいように問題提起されている。ここでは、人工知能が「自分自身の生活のなかにある身近なもの」とされていることに着目する。生徒には、身近な存在である人工知能のメリットやデメリットをしっかりと考えさせ、人工知能との向き合い方について自分なりの考えをもたせたい。次に「整理」「表現」の場面では、実際に人工知能と向き合う場面を設定する。生徒には、自分が書いた文章をキーワード化させ、対話型生成AIにキーワード検索をして書かせた文章と自分の文章とを比較させる。今回用いる生徒の文章は、総合的な学習の時間に書いた「15歳の提言」というものである。本校では、総合的な学習の時間に、産業、医療、文化、観光など10の観点から徳島の課題や課題解決の方法を考え、発表するという取組を行っている。「15歳の提言」とは、生徒自身が考えた15年後の徳島をよりよくする方法を、個人でまとめたものである。生徒には、自分が書いた文章と、人工知能が書いた文章とを比較させ、人工知能から与えられた情報を、多様な視点で考察させる。そうすることによって、人工知能の回答を批判的に考察するためには、対象に関する⼀定の知識や自分なりの問題意識とともに、真偽を判断する能力が必要となることや、AIに自我や人格はなく、あくまでも⼈間が発明した道具であることを認識させたい。そのうえで、単に論説文を読むだけでなく、対話型生成AIの実態や実践を踏まえた、人工知能との向き合い方について、自分の考えを形成させる。
 本単元での目標をよりよく達成することを目指すために、本研究における生徒の探究的な学習の過程を明確にするとともに、それらがよりよく進められるような手立てを講じていく。探求的な学習の過程の詳細については、(4)以降で述べていく。

(2)本単元の目標

(3)本単元の評価規準

知識・技能 思考・判断・表現 主体的に取り組む態度
Ⅰ 情報の信頼性の確かめ方について理解している。((2)イ) Ⅰ 「書くこと」において、目的や意図に応じて、社会生活の中から題材を決め、集めた材料の客観性や信頼性を確認し、伝えたいことを明確にしている。(B(1)ア)
Ⅱ 「読むこと」において、文章を批判的に読みながら、文章に表れているものの見方や考え方について考えることができる。(C(1)イ)
Ⅰ 言葉を通じて積極的に人と関わったり、学習の見通しをもって思いや考えを確かなものにしたりしながら、よりよい方策を考えようとしている。

(4)本単元における探究的な学習の過程

時間(次) 探究的な学習の過程
第一次
(2時間)
① 学習の見通し 人工知能が題材となる二つの文章を読み、人工知能との向き合い方を考える。
第二次
(2時間)
② 整理 人工知能(対話型生成AI)が提案した「15歳の提言」を精査し、自分自身の考えている「15歳の提言」と比較して、付け加えたり変更したりする情報や表現を整理する。
③ 表現 整理した情報を基にして、読者により自分の伝えたいことが的確に伝わったり、説得力が増したりするように、「15歳の提言」を修正することを通して、人工知能との向き合い方について、自分の考えを形成する。
第三次
(1時間)
④ まとめ 自分が「15歳の提言」の中で修正したところ、及び、自分の考えた人工知能との向き合い方を、グループで発表する。

(5)授業実践の様子

①学習の見通し(2時間)
 本単元では人工知能が浸透する社会において、これから自分たちに求められている力とは何かを考えるという学習内容を確認した。また、教科書に載っている人工知能について書かれた二つの文章(「人工知能との未来」羽生善治、「人間と人工知能と創造性」松原仁)を読んだ。この二つの文章には、人工知能を今後どのように使いこなす必要があるのかということについて書かれている。二つの文章を比較し、筆者の主張の共通点などを捉えたうえで、生徒自身が人工知能と今後どのように向き合っていくのかという立場を明らかにしていった。「学習の見通し」の段階で、人工知能との向き合い方を明らかにすることによって、生徒が後の学習で、人工知能から与えられた情報を鵜呑みにしないようにさせるねらいがあった。実際に、生徒が書いた見通し段階での感想にも、「人工知能は私たちの生活を便利にするものではあるが、人工知能からの情報をそのまま使用するのは危険な面もある。」という感想が多数あった。

②整理の過程(1時間)
 本過程では、実際に人工知能を目の前にしたときにどのように情報を整理すれば良いのかを確かめるため、総合的な学習の時間に書いた「15歳の提言」と、同じようなキーワードを基に対話型生成AIが書いた文章「15歳の提言」とを比較させた。ここでは、生徒一人一人に人工知能が示したものを紙面として配付したことで、端末上の自分の提言と人工知能が提示したものを比較する作業がスムーズに行えた。
 インターネット上には多種多様な情報がある。人工知能は、そこから関連する情報を瞬時に探し、文章を生成することができる。そのため、人工知能を有効に活用していく手段の一つとして、「人工知能にアイデアを出させる」というものがあると考える。生徒たちも、二つの文章を比較したときに、対話型生成AIが考えた文章の方が、自分たちの書いた文章よりも情報量が多いことに気付いた。
 しかし、対話型生成AIが書いた文章の情報を、全て自分の文章に書き加えるわけにはいかない。そのため、自分の書いた文章を批判的に読み、足りない情報を明らかにしたり、わかりにくい表現がないか推敲したりさせた。比較対象があることによって、自分の文章を批判的に読むことが自然とできるようになり、客観的な視点で文章を再考することができると考えた。このように、文章を批判的に読むためには、読み比べる対象を明確にし、主観的に書いた文章を、客観的に読むための工夫をしていかなくてはいけないと感じた。そして、対話型生成AIの書いた文章の中から、自分の書いた文章に書き加えたい情報を整理した。
 また、対話型生成AIの提示する情報には、誤りがある場合もある。前時に、生徒たちは人工知能からの情報を鵜呑みにする危険性には気付いていたので、加えたい情報を精査していくために、情報整理のポイントを全体で確認した。そのうえで、対話型生成AIが書いた文章を批判的に読み、適切に情報を精査することができるのかを確かめさせた。
 このように、自分の書いた文章と、対話型生成AIの書いた文章とを比較することを通して、生徒たちは人工知能が自分にない視点を与えるものとして機能していたということを理解し、人工知能を実際に自分が使いこなすことができるのか、人工知能を使いこなすために必要な力とはなにかといったことを考えている姿勢が見られた。(図1)

図1 生徒の感想

図2 自分の文章を再考する様子

③表現の過程(1時間)
 ここでは、前時に整理した情報を基にして、自分の文章を練り直させた(図2)。今回は、自分自身が人工知能の文章から引用したり、参考にしたりして文章を書き直した箇所を赤文字で表した。そうすることによって、生徒は自分の文章に整理した情報をどのように使ったのかが明確になり、視覚的にも認識しやすくなった。
 また、対話型生成AIの文章から得た情報や表現を参考にし、自分の考えを再形成していくことが重要であると考えた。そのため、まず、あくまで対話型生成AIはアイデアを出したり、自分の考えを補完したりするためのツールであり、対話型生成AIの文章をそのまま書き加えるのでは、自分の提言といえないということを確認した。そのうえで、文章を練り直す際、対話型生成AIの文章をそのまま書き加えるのではなく、それを基に分析・考察したことを書くように指示した。
 人工知能が示したものをそのまま書き加えている生徒も一部いたが、おおよその生徒が、対話型生成AIから提示された情報を整理・精査したものを基に、しっかりと自分の考えとして練り直し、自分の文章の中に落とし込むことができていた。
 その過程を経ることを通して、対話型生成AIの実態や実践を踏まえた、学習の見通しよりもさらに深まった、自分の人工知能との向き合い方に関する考えを形成することができた。

図3 発表する様子

④まとめの過程(1時間)
 これまで書いてきた「15歳の提言」及び、自分の形成した考えを班で発表した。(図3)発表の際には、まず自分が最初に書いた文章と、人工知能からの情報を得た後に書き加えた部分、変更した部分を発表させた。文章をよりよくするために工夫した点はもちろんのこと、お互いがどのような形で、対話型生成AIからの情報を活用したのかを確認する場とした。そうすることで、どのような観点で自分が書いた文章と対話型生成AIが書いた文章とを比較し、批判的に読んだのかを全体で共有することができ、より批判的に読む力を養うことができた。
 そして、最後のまとめでは、今後、自分自身の意見をよりよくするために、人工知能をどのように使っていけば良いのかといったことを、改めて考えさせた。体験を経て形成した他者の意見を踏まえて、生徒はさらに考えを広げたり深めたりすることができた。生徒の感想からは、人工知能に対する捉えや、自分自身が人工知能からもたらされた情報をどのように処理するのかといった意見も出てきた。本単元の学習を通して、人工知能の回答を批判的に修正するためには、対象に関する⼀定の知識や自分なりの問題意識とともに、真偽を判断する能力が必要となることや、人工知能に自我や人格はなく、あくまでも⼈間が発明した道具であることを生徒に認識させることができたのではないかと考えている。

(6)成果と課題(〇…成果、●…課題)

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