合田 紅花
本題材は、「B 衣食住の生活」の(3)「日常食の調理と地域の食文化」ア(イ)(ウ)(エ)、イの学習との関連を図った題材である。ここでは、日常の1食分の調理において、調理の仕方や調理計画に関する問題を見いだし、課題を設定、解決することが求められる。本学年の生徒は、コロナ禍のため、小学校で調理実習を全くしていない生徒もおり、中には包丁に初めて触れると発言した生徒もいる。家庭ではIHコンロが普及し、学校のようなガス加熱調理が初めての生徒も多い。このような現状の中でも生徒は「調理が上手になりたい」「いろいろな調理に挑戦したい」という願いをもっている。この理想と現実とのギャップを問題ととらえ、研究を進めることにした。題材を通して、基本的な調理操作や食品の衛生的な扱いを習得させ、将来において、安全で衛生的に、調理を楽しめる生徒を育てたい。また、一連の学習活動を通して、課題を解決する力や、生活を工夫し創造しようとする実践的な態度を育成することをねらいとした。本題材を貫く問いを下のように設定した。
調理上手になるにはどのようにすればよいだろうか |
生徒には、自分のこれまでの調理経験や小学校での調理実習をもとに、調理に関する課題を設定し、基礎的な調理の学習を繰り返し行うことを通して、少しずつ課題解決に向けての力をつけさせたい。題材の最後には、それまでの学習を振り返って「徳島のうまいもん定食」の計画を立て、実践、評価・改善させる。現在の学習指導要領では、これまでの指導要領で習得を図っていた「煮る」、「焼く」に加えて「蒸す」が加わった。また材料に適した加熱調理の仕方について理解し、基礎的な日常食の調理が適切にできる力が求められている。「蒸す」に関しては、今まで3年生で「幼児のためのオリジナル蒸しパン」の調理実習を行ってきたが、調理としては単発的な学習となってしまい、「蒸す」調理を加熱調理として系統的に学習できていないと感じていた。そこで、実践では「蒸す」調理を理解し、生活に生かす力を育成できるように題材を構成した。サツマイモの食べ比べという形で食材をいろいろな方法で加熱調理させ、食べ比べを行うことで、生徒自らが加熱についての特徴を見出せるよう学習に取り組ませた。調理や食べ比べの中で見つけた生徒の「なぜだろう」という疑問が、ほかの教科の内容や生徒の生活そのものとつながれば、さらに深まる探究になると考える。また、基本的な調理操作である、計量・切る・加熱について具体的な実習を伴って学んだあとに、日常食の調理でもう一度「焼く」「蒸す」「煮る」の調理実習を繰り返し行うことで、調理の仕方についての基礎を十分に理解し、生徒ができるようにするために配列を工夫した。
本題材の目標をよりよく達成することを目指すために、本研究における生徒の探究的な学習の過程を明確にするとともに、それらがよりよく進められるような手立てを講じる。これらの詳細については、(4)以降で述べていく。
知識・技能 | 思考・判断・表現 | 主体的に学習に 取り組む態度 |
・食品や調理用具等の安全と衛生に留意した管理について理解しているとともに、適切にできる。 ・材料に適した加熱調理の仕方について理解しているとともに、基礎的な日常食の調理が適切にできる。 ・地域の食文化について理解しているとともに、地域の食材を用いた和食の調理が適切にできる。 |
日常の1食分の調理における調理の仕方、調理計画について問題を見出して課題を設定し、解決策を構想し、実践を評価・改善し、考察したことを論理的に表現するなどして課題を解決する力を身に付けている。 | 家族や地域の人々と協働し、よりよい生活の実現に向けて、日常食の調理と地域の食文化について、課題の解決に取り組んだり、振り返って改善したりして、生活を工夫し創造し、実践しようとしている。 |
本題材における探究的な学習の過程は以下の通りである。
時間 | 探究的な学習の過程 | |
1 | ① 課題の設定 | 生活の中から問題を見いだす。 「調理上手になるにはどのようにすればよいだろうか。」 解決すべき個別の課題を設定する。 (例)「魚料理に挑戦したい。」 「地域の食材を使ったおいしい料理を作りたい。」 「いろいろな料理ができるようになりたい。」 「手早く家族のために料理ができるようになりたい。」 |
2~5 | ② 解決方法の検討と計画 | 調理に関わる知識及び技能を習得する。調理について多角的にとらえ、解決の見通しをもち、計画を立てる。 ・洗う ・計量 ・調味 ・切る ・加熱 ・盛り付け ・後片付け |
6~11 | 課題解決に向けた実践活動 | 調理に関する知識及び技能を習得し、それを活用しながら調理実習を行う。 ・肉、魚、野菜を用いた調理を行う。 |
12~15 | ④ 実践活動の評価・改善 | これまでの学びを生かし、地域の食材を用いた1食分の献立を立て、調理計画を考え、工夫する。 ・家庭実践を計画し、家庭で調理を行う。 |
図1 題材見通しワークシート
①課題の設定の過程
この過程では、既習の知識及び技能や生活経験から問題を発見し、個々の課題を設定させるために発問や簡単なアンケートを行った。アンケートの結果、小学校時代に調理実習などで調理したものとして、米飯や味噌汁、野菜を用いた調理、卵を用いた調理が多かった。一方、本学年は、小学校時代にコロナ禍だったこともあり、調理実習が行えなかった生徒もいた。生徒は調理実習がしたいという思いとともに、「調理ができるようになりたい」という願いを持っていることが分かった。その願いを「調理マスターになろう」という合言葉の元、ワークシートに具体的に記述させた。ワークシートを図1に示す。ワークシートでは生徒がどのような調理マスターになりたいか、自分なりの姿を想起させ、題材全体の見通しが持てるものとした。実際に生徒が設定した課題を図2に示す。
図2 生徒が個々に設定した課題
②解決方法の検討と計画の過程
課題設定の過程で「調理上手になるにはどのようにすればよいか。」という問いに対し、生徒は個々に課題をもった。その課題を解決するために、この過程では、簡単な操作による調理を行いながら、調理に関わる知識及び技能を習得し、調理について多角的にとらえ、解決の見通しを立てていく。本題材では「計量」「切る」「加熱」についてそれぞれに簡易調理を行い、今回は、その中でも「加熱」という調理操作に焦点を当て、研究授業を行った。
加熱方法は、「焼く」「蒸す」「ゆでる」「電子レンジ加熱」の4方法で、班ごとにそれぞれの方法で加熱調理させる。その後、加熱方法の違うサツマイモ4種を生徒個々に配布し、食べ比べを行う。また、生徒が加熱による特徴を整理できるように、思考ツールのマトリクス表を用いて、サツマイモの違いを比較して記入させた。(図3)生徒は、マトリクス表にそれぞれの調理法の特徴を記入することができ、この時間の目標である「様々な加熱方法について知り、その特徴について理解する」ことができた。また、授業のまとめに利用したワークシートの内容を図4に示す。記述には、わかったことのほかに、調べてみたいことや挑戦したいことなどが記され、この題材に対する意欲や興味関心の高まりを見取ることができた。
図3 マトリクスを利用した生徒のまとめ
図4 ワークシートによる生徒のまとめ
③課題解決に向けた実践活動の過程
この過程では、②の場面で習得した知識及び技能を活用し、課題解決に向けた実践活動として、肉・魚・野菜を用いた1品の調理実習を行った。調理実習の前に、調理についての要点の確認と調理計画を行い、次の時間に実習を行う。②の場面で習得した技能「計量」「切る」「加熱する」などを繰り返し使えるように調理する献立を工夫した。「豚の生姜焼き」では「焼く」「計量」を、「さわらの包蒸し」では「蒸す」「切る」「計量」を、「ふしめん汁」では「煮る」「切る」「計量」を行った。また、ふしめん汁では郷土の食材を扱い、④の実践活動の評価・改善の過程につなげることができるようにした。
図5 パフォーマンス課題
④実践活動の評価・改善の過程
この過程では、一人一台端末を活用し、図5のようなパフォーマンス課題のレポート形式で献立を考えさせた。これまでの学びを生かし、地域の食材を用いた1食分の献立を立て、調理計画を考え、実際に調理する想定で工夫できるようにした。生徒は学習過程の②~③で学んだことを活用して課題を解決することができている。また、レポートをもとに、グループ内で調理実習を行うという観点を明確にして話し合いをさせ、この献立を実際に調理する想定上での工夫点や話し合いを受けての改善点などを書かせた。生徒の記述を図6に示す。
図6 調理する想定上での工夫点(生徒の記述より)
本研究では、探究的な学習の一連の過程(①課題の設定②情報の収集③整理・分析④まとめ・表現)に基づいて、技術・家庭科(家庭分野)の問題発見・課題解決学習の過程を参考として、題材を構成し、手立てを講じて授業実践を行った。
図7 探究の過程と生徒の記述