本校の研究

教科実践編(技術・家庭(技術分野))

技術科における授業実践について

岩山敦志

(1)題材の概要(2年生:双方向のあるコンテンツ制作)

 本題材では、ネットワークを利用した双方向性のあるWebコンテンツを例に情報の技術に関する科学的な原理・法則と、基礎的な仕組みの理解、技術の見方・考え方を働かせながら問題発見・課題設定し、解決する活動を行った。
 生徒には宿泊先検索サイトやルートマップサイト、徳島県が制作している防災・減災マップを例として生活の中にある地図を利用したWebコンテンツから工夫された箇所を見つける活動を通して、情報の技術における見方・考え方に気付かせた。次に、Webコンテンツの基礎的な制作方法を身に付けさせた。その上で生徒が日常生活や社会全体における安全をテーマに問題を見いだし、技術の見方・考え方を働かせながら課題を設定し、解決する活動を行った。この活動の中で、社会からの要求、安全性、経済性や環境負荷などの視点から評価・改善を行った。これらにより理解の深化や技能の習熟を図るとともに、技術によって問題を解決する力や、自分なりの新しい考え方や捉え方によって解決策を構想しようとする態度などを育成した。最後に、それまでの学びを振り返り、技術としての概念の理解を深めるとともに、技術を評価し、適切に選択し、管理・運用する力と社会の発展に向けて技術を工夫し創造する態度を育成した。
 本題材で生徒が取り組んだ内容は次の通りである。

題材名安全に関わる問題を発見して、双方向性のあるコンテンツで解決しよう

 問題発見・課題設定の場面では、生徒が生活や社会における安全をテーマに問題を見いだし、情報の技術にある見方・考え方を働かせながらWebコンテンツを利用して解決できる課題を設定した。問題を見いだす場面では、思考ツールとしてマトリクスを利用した。縦軸に解決したい対象者が誰になるのか、横軸に安全に関わるキーワードを記述し、誰に対してどんな問題があるのかを整理させた。マトリクスを用いた理由は2点ある。1点目は、キーワードだけでは問題が抽象的になり、思考が広がりにくいと考えた。そのため、マトリクスを用いることで抽象的な1つの問題に対して「誰のため」「何のため」と多角的に捉えさせ、思考を発散させた。このことにより、問題が具体的な形として発散させながらも整理できると考えた。2点目は、課題としたコンテンツ制作を構想する際、「何のための制作か」が「思いついた作りたいものをつくる」にならないようにするためである。多角的に捉えたマトリクスを残すことで、構想に行き詰まった際に代案を見直し、目的と制作がぶれないようにできると考えた。課題を設定する場面では、マトリクスをもとに地図コンテンツを用いて解決できそうな問題を探し、考えの収束を図った。そこから、課題を設定し、実現可能な地図コンテンツの構想へと具体的な形にした。
 コンテンツ制作ではHTMLとJavaScriptを用い、テキスト形式でのプログラミングを行った。テキスト形式でのプログラミングは高等学校における「情報Ⅰ」への接続を加味している。ただし、プログラムを白紙の状態から始めるのではなく、あらかじめ指導者が用意した例題をもとに生徒が運用していくものとした。制作後、生徒に自己評価や他者評価から制作物の見直しを行わせ、次につながる実践的な態度を育成した。
 本題材の目標をよりよく達成することを目指すために、本研究における生徒の探究的な学習の過程を明確にするとともに、それらがよりよく進められるような手立てを講じる。これらの詳細については、(4)以降で述べていく。

(2)本題材の目標

(3)本題材の評価

知識・技能 思考・判断・表現 主体的に取り組む態度
Ⅰ 生活や社会で利用されている情報の技術についての科学的な原理・法則や基礎的な技術の仕組み、情報モラルの必要性及び、情報と生活や社会、環境との関わりについて理解している。
Ⅱ 安全・適切なプログラムの制作、動作の確認及びデバッグ等ができる技能を身に付けている。
Ⅰ 生活や社会にある安全に関わる問題を見いだして、必要な機能をもつコンテンツの課題を設定し、解決策を構想し、実践を評価・改善し、表現するなどして課題を解決する力を身に付けている。
Ⅱ よりよい生活の実現や持続可能な社会の構築を目指して、情報の技術を評価し、適切に選択、管理・運用、改良、応用する力を身に付けている。
よりよい生活の実現や持続可能な社会の構築に向けて、課題の解決に主体的に取り組んだり、振り返って改善したりして、情報の技術を工夫し創造しようとしている。

(4)本題材における探究的な学習の過程

第1次
(2時間)
①課題の設定 安全に関わる問題の中から技術分野の内容を利用して解決できる問題を見いだし、課題を設定する。
第2次
(1時間)
②構想・計画 設定した課題の解決策を構想し、計画する。
第3次
(5時間)
③実践・改善 計画にそって実践し、その結果について社会からの要求、安全性、環境負荷や経済性などに着目して改善する。
第4次
(1時間)
④評価・活用 実践の成果を評価することで、技術についての概念の理解を深め、よりよい生活や持続可能な社会の構築に向けての方策を検討する。

(5)授業実践の様子

図1 生徒Aのマトリクス例

図2 生徒Bが設定した課題例

①課題設定の過程
 はじめに授業で行う学習内容について確認させた。
 自分の身の回りや社会にある安全に関わる問題についてキーワードを考えさせた。生徒からは「交通安全」「防犯」「不審者」「災害」などの発言があった。そこで、キーワードをもとに問題を発見させ、具体化させていくために、マトリクスを利用した。マトリクスでは、横軸にキーワード、縦軸に誰の問題かを示し、誰にどんな問題が起こるのかを想像させた。図1に生徒Aがまとめたマトリクス例を示す。この生徒はキーワードとして「地震」「交通事故」で想定している。「交通事故」では、「自分」の視点でどんな問題が起こるのか考え、どのような情報が必要かを想定している。「近くの誰か」の視点では、対象を自分の目の前にいる人と捉え、「救急車を呼ぶ」など視点に広がりが見られた。「遠くの誰か」では、その事故で交通に影響が出ることを想定する意見が見られた。次に、前時に行っていた学習の振り返りを行った。前時では宿泊先検索サイトやルートマップサイト、徳島県が制作している防災・減災マップからどのような工夫を読み取れるかという学習を行った。その振り返りの際に、生徒が調べたコンテンツに共通して、地図コンテンツが用いられていたことに気付かせた。マトリクスの中から地図コンテンツを利用して解決できそうな問題を見つけさせた。その見つけた問題を解決するための方法として地図コンテンツを用いた課題を設定させた。図2に生徒Bが設定した課題例を示す。交通事故を起きにくくするためのコンテンツ制作として、交通事故の起きやすい場所や必要な標識を地図と共に表示させることで問題解決の1つになると生徒は考えていた。
 この授業では生徒が自分の身の回りや社会にある問題を見いだして、情報の技術を用いて解決できる課題を設定させた。問題が具体的な内容になるように、生徒に問いかける内容やワークシートを工夫したり、完成図のイメージを伝えたりするような手立てを講じた。これらの手立てによって、生徒は自ら進んで問題に対峙し、解決方法に対して帰納的に考え、そのための最適な課題を設定することができた。

②方針の過程
 この過程は、生徒が設定した課題を実現させるための構想や計画を立てる過程である。構想図や作業計画を用いて、限られた時間で完成できるよう考えさせる。
 まず、生徒が設定した課題を確認させ、「どんな情報をどのように表示して解決していきますか?」と問いかけ、グループで確認させた。なかなかうまくいないグループについては、「工夫を読み取る学習のときはどんな表示方法がありましたか?」と尋ねると、ほとんどの生徒が「マーカーを使うとどの場所かがわかる。」と答えた。そこで「その場所の情報は、写真の情報が良いのか文字の情報が良いのかその場所に関する他のWebページの情報が良いのか」と問い返し、改めて情報を用いることの必要性と意味について全体で確認した。次に「今、頭の中にあるコンテンツの完成形を構想図にまとめよう」と指示し、生徒にそれぞれ構想させた。生徒Cの構想例を図3に示す。この生徒は交通事故の起きた場所の表示と自然災害の際の避難場所についての情報を合わせて表示させるコンテンツを構想していた。事故の件数によって表示の色を変えたり、避難場所にどれぐらいの時間で避難できるか目安となるエリアを表示したりする案を考えていた。次に、「考えた構想を実現するために必要な作業は何か考えよう」と問い、作業の工程について考えさせた。工程には「マーカーを付けていく」「マーカーで表示する数値や写真、文字情報を探す」「調べた数値や写真、文字情報を見やすいように加工する」など、主に制作していくための作業内容が上がった。そこで、制作時間を限定するとともに、制作には改善するための見直しや評価の時間があることを確認させた。そして、これらをもとに生徒に作業計画を立てさせた。生徒Dの作業計画例を図4に示す。生徒は限られた時間の中で効率の良い作業内容を考え、最初にマーカーとともに表示する情報をまとめたり、マーカーを置く場所が多いため、中間発表に向けてマーカーを設置する事を優先したりしていた。
 この授業では、構想の際にタブレットを活用してワークシートへの図や写真の貼り付けを行い、作業時間を短縮させることができた。その際、具体的に表示できる工夫や各作業時間の目標を生徒に立てさせるよう、問いかける内容や、ワークシートを工夫したりするような手立てを講じた。これらの手立てによって、生徒は自らゴールを設定し、それに向かう学習を進められる流れを身に付けることができた。

図3 生徒Cの構想例

図4生徒Dの作業工程例

③実践の過程
 この過程では、計画に基づいて、個人でこれまでの学習で身に付けた技術を用いてプログラミングを行いながら制作し、他者への中間発表を経て改善を行った。
 本題材で扱うプログラミング言語はHTMLとJava Scriptを用いている。Webコンテンツを制作する上で、実行できるテキスト型のプログラミング言語でとしてJava Scriptを採用した。生徒は課題設定を行う前に例題の制作をいくつか行い、基礎技能を身に付けている。基礎技能としては、マーカーの設置方法、マーカーへの文字や写真、リンクの表示方法、地図上に円や直線を描く方法がある。生徒はこれらの基礎技能を用いて計画に基づいた制作を行った。その際、社会からの要求、安全性、環境負荷や経済性をそれぞれ「わかりやすいコンテンツか」、「正しい情報か」、「掲載して良い情報か」、「データは整理されているか」、「情報を探す手間は少ないか」という言葉に置き換えて、コンテンツが利用されやすいものになるよう伝えた。また、中間発表では「どうしてこのコンテンツを作ろうとしているのか」、「作ったコンテンツでどのような効果をねらっているのか」も含めて発表させ、改善点を自ら見つけられるように促した。図5に中間発表後に生徒がまとめたコメント例を示す。コメントには何を修正するのか、どのように改善するのかをまとめさせるとともに、それまでの完成度を数値で表現させた。これにより、残りの時間で自分がするべき作業内容を再度確認できるとともに他者から見た改善点に気付かせることができた。

図5 生徒のコメント例

写真1 発表の様子

④評価・活用の過程
 この過程は、問題解決の過程を振り返り、よりよい生活や持続可能な社会の構築に向けて考察する過程である。まず、グループ学習として、制作者による完成した作品の発表と聞いている班員による評価を行った。発表の様子を写真1に示す。評価項目については③実践・改善の過程で説明した「わかりやすいコンテンツか」、「正しい情報か」、「掲載して良い情報か」、「データは整理されているか」、「情報を探す手間は少ないか」を判断基準とした。その後、発表者は班員のコメントをもとにコンテンツを見直し自己評価を行った。図6に生徒による自己評価の例を示す。記述には自分のコンテンツを用いることで解決の一因になる可能性になる充実感を得た意見が多かった。それとともに自分の情報量や内容が適したものになっているかを再確認でき、新たな改善点を見いだしている生徒も多くいるようであった。

図6 自己評価の例


 次に発展的に考察させる内容として、「コンテンツ制作でどのような工夫をしたか」、「学習した情報の技術を用いてどんなものを作りたいか」、「これからの社会にどんなコンテンツが必要とされるか」を尋ねた。多くの生徒は利用者の視点でどのようなコンテンツがあると見やすいのかを考え、使用できる機能を用いてどのように見せるとよいかを工夫していた。また、「どんなものを作りたいか」の問いには、今回作成した問題と違うキーワードについて取り組みたいという意見が多く、それ以外には旅行やショッピング、食事についての情報をまとめたものがあった。「これからの社会にどんなコンテンツが必要とされるか」の問いには「通信販売で自分が思っていたものと違う商品が届いたということをなくすために、3Dで家具を示したり、洋服の試着ができたりするようなコンテンツ」を挙げていた生徒もいた。
 この授業では、改善する点や評価が具体的になるように、社会からの要求を「わかりやすいコンテンツか」に、安全性を「正しい情報か」と「掲載して良い情報か」に、環境負荷を「データは整理されているか」に、経済性を「情報を探す手間は少ないか」という言葉に置き換える手立てを講じた。これらの手立てによって、生徒は改善の具体案を考えたり、一定の基準をもって自他の評価を行ったりできた。

(6)成果と課題(〇…成果、●…課題)

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