本校の研究

教科実践編(美術)

美術科における授業実践について

栗岡 良平

(1)題材の概要(2年生:デザイン分野)

題材名ロゴマークでハートをつかめ!
~分かりやすく、印象に残るロゴマークの制作~

 本題材では、想像上の企業のロゴマークをデザインする。ロゴマークは身近なものであるが、そのデザイン性について考える機会は少ないのではないだろうか。生徒には洗練されたロゴマークの美しさを感じ取り、伝えたい情報を分かりやすくビジュアル化することの楽しさを味わって欲しい。
 優れたロゴマークを鑑賞することで、企業のイメージを直感的に伝えるロゴマークの役割について理解する。伝えたい内容を考えて、配色や書体を選択し、さらに見る人の印象に残るような視覚伝達のデザインを主体的に創意工夫して表現する。
 制作環境として、タブレット端末を使用する。デザインの試行錯誤を簡単に繰り返し行えることや、制作途中の記録をデータとして保存でき、表現の変容がわかりやすいことが利点である。各自、インターネットで必要な情報を収集することもできる。制作活動を行いやすいように光学式マウスを用意した。
 さらに、本題材では学習目標をよりよく達成するために、探究的な学習の過程を明確にした。主題を表現するための課題を設定し、その課題の解決を図るなど、探究的な学習の過程を経ることで、生徒はより主体的な態度で授業に取り組めると考えた。これらの詳細については、(4)以降で述べていく。

(2)本題材の目標

(3)本題材の評価

知識・技能 思考・判断・表現 主体的に取り組む態度
Ⅰ 形や色彩が感情にもたらす効果や、造形的な特徴を基に、伝わりやすく、見る人の印象に残るデザインを全体のイメージで捉えることを理解している。
Ⅱ 意図に応じて表現方法を工夫し、制作の順序などを総合的に考えながら、見通しをもって創造的に表している。
Ⅰ 情報を伝える目的や条件などを基に、伝える相手や内容、社会との関わりなどから主題を生み出し、形と色の組み合わせの効果や、分かりやすさと美しさの調和などを総合的に考え、表現の構想を練っている。Ⅱ 情報を分かりやすく伝えるデザインの調和のとれた洗練された美しさなどを感じ取り、情報を分かりやすく伝えるための工夫などを考えて、美意識を高め、見方や感じ方を深めている。 Ⅰ 美術の創造活動の喜びを味わい、主体的に何を伝えるかを考えて、見る人に分かりやすく、印象に残るようにデザインする表現の学習活動に取り組もうとしている。
Ⅱ 美術の創造活動の喜びを味わい、主体的に情報を分かりやすく伝えるための工夫を感じ取る鑑賞の学習活動に取り組もうとしている。

(4)本題材における探究的な学習の過程

第1次
(1時間)
①課題の設定 架空の企業を想像し、ロゴマークで表す主題を生み出す。主題を表現するための課題を設定する。
第2次
(2時間)
②情報の収集 インターネットなどで課題解決に必要な情報を収集する。プロトタイプを制作し、それを紹介し合い意見交換を行う。
③整理・分析 収集した情報を整理・分析し、デザインの改善点について思考する。
第3次
(2時間)
③表現・まとめ ロゴマークを完成させ、気付きや発見、自分の考えなどをまとめ、発表する。

(5)授業実践の様子

①課題の設定
 有名企業などの洗練されたロゴマークを装飾していていないテキストと比較して鑑賞することで、ロゴマークが果たす役割や美しさについて考えた。その中で、「企業の名前を覚えてもらうこと」や「企業のイメージを伝えること」、「他の企業と差別化を図る」などに気づいたり、デザインの美しさを感じ取ったりできていた。
 そして、ロゴマークをデザインするための架空の企業について、社名・事業内容・企業理念を中心に想像してまとめた。この企業のイメージがロゴマークとして表すための主題となる。さらに、デザインの中で特に達成したいことを課題として設定し明確にした(図1、図2)

図1 生徒Aのワークシート

図2 生徒Bのワークシート

②情報の収集
 プレゼンテーションソフトを使ってロゴマークのプロトタイプを制作した。プレゼンテーションソフトは柔軟に図形や色を扱え、素早く編集ができるのでグラフィックデザインにも適している。毎時間の最初の5分間で、基本的な図形を組み合わせて必要な形を作り出す方法や、色で塗りつぶす方法などを学習した。図形同士の接合や切り出し、グラデーションで塗りつぶす方法など、特にデザインする上で重要と思われるソフトウェアの機能について指導した。その他の応用的な使用法については生徒同士で教え合ったり、インターネットで調べたりするように促した。
 インターネットを使い、想像した企業と類似した業種の企業のロゴマークについて調べた。また、既に学習している色(暖色・寒色等)や書体(明朝体・ゴシック体等)が見る人に与える効果について、例となるロゴマークを示し、考える時間をとった(写真1)

写真1 授業の様子

写真2 意見交換の様子

 デザイン分野では、他者からの客観的な感想や意見はデザインを改善していく上で重要である。ロゴマークのプロトタイプをグループで紹介し合い意見交換をした(写真2)。意見交換の際には、第一印象として直感的に感じたロゴマークの良さを、ハートの大きさであらわして伝えられるようにした。また、良い点や改善点などの感想・意見を付箋に書いて交換するようにした(図3、図4)

図3 生徒Aがもらった付箋の内容

図4 生徒Bがもらった付箋の内容

③整理・分析
 文章でまとめることはせずに、実際にデザインを改善していくことで、情報の整理・分析がされていくと考えた。特に、良い点として意見をもらったことについて、自信を持って制作を進めることができていた。また、企業のイメージがしっかりと伝わっているかどうかという点についても分析を行い、デザインを改善していた。

④表現・まとめ
 配色や字体の調整、全体のバランスを確認して作品を完成させた(図5、図6)。作品についての気付きや発見をまとめ、グループ内で作品を紹介した。ロゴマークへの思いや、企業の事業内容について具体的に話すことが出来ていた。他者の作品についての質問なども積極的に行うことが出来ていた。
 その後、グループ代表の作品を決めて、グループ対抗のプレゼンテーションコンテストを行った。グループで協力して作品のプレゼンテーションを考え、代表作品の工夫点や魅力について発表をした。最後に、グループごとに話し合い、どのグループのデザインが一番良かったかを投票して優勝グループを決定し、表彰した。

図5 生徒Aの完成作品

図6 生徒Bの完成作品

(6)成果と課題(〇…成果、●…課題)

(7)その他の完成作品

364
本校の研究TOPに戻る